0176 高知県の昆虫に関する専門誌「げんせい」に相愛社員の報文が掲載されました
弊社の自然環境調査課では、以前のブログ「0166 高知県内での昆虫類分布調査の結果が四国自然史科学研究に掲載されました」で紹介させていただいた通り、業務の傍ら、高知県内における昆虫類の分布情報の蓄積を積極的に進めております。
本ブログでは、高知昆虫研究会が発行している「げんせい」98号という雑誌に弊社社員(辻󠄀・近藤)が執筆した報文が掲載されましたので、概要を紹介させていただきます。
【表紙】(弊社社員の著者:辻󠄀)
表紙写真に弊社敷地内で撮影された写真を採用いただきました。モデルはアカマダラハナムグリというコガネムシの仲間になります。本種幼虫は猛禽類やハシボソガラスなどの鳥類の巣内で過ごすという特殊な生態をもっており、成虫になると樹液に集まってきます。
ちなみに撮影個体は、弊社敷地内で実施しているバナナトラップを用いた昆虫観察会「0081 バナナトラップをつかった昆虫観察会」の準備期間中に発見されたものです。
表紙に採用されたアカマダラハナムグリの写真
【高知県香南市に設置された機器収納箱内で確認されたアリ科】(辻󠄀)
野外で電子機器を設置するための機器収納箱内で採集したアリを記録しました。調査の結果、一時的と思われる種を含めると7種のアリが収納箱内を利用していることが確認されました。食べるものがほとんどない過酷と思える環境ですが、巣を作るのにちょうど良い空間なのかもしれません。
機器収納箱内で確認されたルリアリの確認状況
【天狗高原(高知県側)で採集したアリ科】(辻󠄀・近藤)
2021年に愛媛県との県境にある天狗高原でアリ科の調査に関する現地実習(「アリの仲間を調べよう!」(※このイベントは高知県野生生物分布調査事業(高知県自然共生課)により開催されました。)の講師を担当させていただく機会があり、その際に採集されたアリを記録しました。採集できたアリ類は合計10種で、このうち過去の調査で記録されていたアリ科は1種のみだったため、うち9種が当地域から初めて報告されたものと思います。
天狗高原での調査地風景
【株式会社相愛(高知市重倉)敷地内の昆虫相I】(辻󠄀)
昼休み等の空き時間を活用して弊社敷地内で採集した昆虫類を記録しました(標本に基づくデータのみ使用)。また、社員の方から提供いただいた昆虫類も多く含まれています。現時点で5目31科86種を確認しました。分類群の偏りがあるため、今後は網羅的にデータを収集し、まとまってきたらII・IIIと順次公表していければと考えております。
社内で採集された昆虫の一例.Aはホソコゲチャセマルケシキスイ、Bはコゲチャセマルケシキスイ.
【高知県におけるクスベニヒラタカスミカメの追加記録】(辻󠄀)
高知県内3か所で採集・確認したクスベニヒラタカスミカメの分布記録を報告しました。本種は2015年に関西地方で初確認されて以降、急速に分布を広げています。高知県では2019年に高知市から初記録されましたが、今回の報告によって田野町・安芸市・土佐市から記録されたため、県内でも分布を拡大している可能性が高いです。
本種は幼虫・成虫ともにクスノキの葉を吸汁して加害します。吸汁の影響で、本来であれば春に落葉をするクスノキの葉ですが、夏季に落葉してしまうこともあるようです。県内では、市街地にもよく植えられている樹種ですので、お住いの地域で本種を見つけられたらご一報いただきたいです。
1.クスベニヒラタカスミカメ,2.寄主植物のクスノキ
【高知県におけるアカギカメムシの分布記録】(辻󠄀・近藤)
高知県におけるアカギカメムシの分布記録を、現地調査および既往文献のデータで整理しました。高知県ではこれまで足摺岬周辺、室戸岬周辺で生息地が確認されていましたが、本報で新たに県中央部の記録を追加し、沿岸部を中心に県内で分布を広げている可能性が示唆されます。本種は南西諸島に多いカメムシですが、近年はどんどん分布域を北上させているようです。
(校了後に、弊社社員のTさんから弊社敷地内で撮影された本種の写真を見せていただきました。自力で辿り着いたのか、人や物などに随伴してきたのかは不明ですが、標高300m程ある弊社で発見されたのは驚きです。自分が想像しているよりも、既に広域に分布しているのかもしれません。)
アカギカメムシ
【高知県におけるチビヒメヒラタナガカメムシ】(辻󠄀)
高知県で採集したチビヒメヒラタナガカメムシを記録しました。本種は草地に生息しており、県内にも広く分布するものと思いますが、四国から公式な記録はないようでした。本報が四国から初めての記録になるものと思います。
チビヒメヒラタナガカメムシ
【高知県東洋町でベニモンマルケシキスイを採集】(辻󠄀)
高知県東洋町で採集したベニモンマルケシキスイを記録しました。おそらく高知県から初めての公式な記録と思います。本種は菌類(きのこ)に集まるようで、ホストの菌類は県内各地でよく見かけますので、広く分布しているはずです。
ベニモンマルケシキスイ
【高知県東部でハマスズを採集】(近藤)
高知県レッドデータブック2018で絶滅危惧I類として掲載されている海浜性昆虫のハマスズを、高知県東部の芸西村・室戸市・東洋町から記録しました。本種はこれまで黒潮町以西で分布が確認されていましたが、本報によって県東部にも分布することが初めて報告されました。
本種は環境省レッドデータブックには掲載されていませんが、地域レベルでは危機的な状況であることが多く、国内22府県の都道府県版レッドデータブックに掲載されております。
今後も本種の生息状況について調査を進め、将来的には保護や保全などに役立てていきたいと考えています。
ハマスズ
以上8本が「げんせい」98号に掲載された弊社社員の報文です。絶滅危惧種や外来種の生息状況、高知県から初めて報告される種の記録などが中心で、高知県内の生物多様性情報の蓄積に貢献できているものと考えております。今後も業務の合間やプライベートを有効に活用して調査を進め、成果を地域へ還元していきたいと思います。
【おわりに】
弊社では業務としての昆虫調査も随時承っております。敷地内にどんな昆虫が生息しているか知りたい、昆虫調査業務の委託先を探している等の昆虫調査に関するご要望がございましたら、下記アドレス宛へお気軽にご相談ください。
昆虫担当:辻󠄀) y.tuji☆soai-net.co.jp(☆を@へ変換して送信ください)