0155 高知県立のいち動物公園におけるアリ科の生息状況調査

2022.04.08

カテゴリー: 活動報告

2021年の夏~秋に、昆虫を専門とする自然環境調査課の社員2名で、高知県立のいち動物公園(高知県香南市)のアリ科を調査する機会がありました。ここでは本調査の概要について、紹介させていただきます。

 

【アリとは】

さて、本題に入る前に皆さんは“アリ”と聞いて、どんなイメージがありますか?

小さい虫、甘いものに集まってくる虫、噛まれると痛い虫…など様々あるかと思いますが、アリに関する話題で記憶に新しいものと言えば、毒針を持つヒアリ等がメディアで取り上げられたことではないでしょうか。

 

(ヒアリの働きアリ、ヒアリの巣:出典 環境省)

 

この一件から、アリ=危険生物というネガティブなイメージを持っている方もいるかもしれません。

 

確かに、危険な種類のアリがいるということは事実です。しかし、本来“アリ”という生物は多くの生態系において、重要な位置を占めており、自然のバランスを支えている重要な昆虫の一つでもあります。

 

 

それでは、「アリ」がどのような生き物なのか、簡単にアリについての基礎知識を羅列します。

 

  • 昆虫綱ハチ目アリ科に属する一群の総称。

⇒アリ科に属するすべての種は、腹柄節(胸と腹部の間にある独立した節)をもつ。

(腹柄節の位置)

 

  • 日本国内には約300種が知られている。
  • 自然豊かな山の中だけでなく、海岸や公園、家の中にまで分布するなど、陸上のほとんどの場所に生息しており、種ごとに生息環境や餌が異なる。

⇒環境の指標生物(種数や生息数などが環境の状態と密接に関係している生物のこと)として利用できる可能性がある。

  • 生態系の中では小動物の強力な捕食者や被食者としての役割を担い、植物の種を運ぶ運び屋の一面も持つ。

(生態系ピラミッドにおけるアリの位置)

(アリが種を運ぶ植物:スミレ)

 

  • 色々な餌を食べるアリも多いが、特定の餌を食べるアリ(スペシャリスト)もいる。

例)ダルマアリはクモの卵、ミツバアリはアリノタカラカイガラムシの甘露。

  • 他種のアリに寄生するアリもいる。

例)ヤドリウメマツアリは働きアリが存在せず、同属のウメマツアリに寄生する。

  • 集団で生活しており、巣内で従事する仕事に応じて形態的にも分化している(カースト性)。

⇒女王アリは産卵、オスアリは交尾、兵アリは大きな獲物の解体や巣の防衛、働きアリは労働全般を主に担当。

(アズマオオズアリのカーストごとの形態)

 

  • 集団生活する巣内にはアリ以外の生物も同居している

⇒ハネカクシ、ワラジムシ、アブラムシ等の仲間がいて、これらは好蟻性昆虫と呼ばれる。

 

 

  • 女王は長寿(多くの種で10年前後と言われている)。
  • 近年はペットとしての人気も高まっている。

(アリの巣:イメージ)

 

 

アリが300種類も日本にいると聞いて驚いた方も多いのではないでしょうか。このように様々な面白い生態を持ち生態系に重要な種である、どこにでもいる”アリ”ですが、高知県における分布情報の蓄積は十分とはいえません。

 

 

弊社ではアリ科の生息状況を高知県各地で調査しており、県内の生物多様性情報の基礎資料とするため、近年の分布データの蓄積を進めています。

その一環として、昨年(2021年)は高知県立のいち動物公園で3日間の現地調査をさせていただきました。

 

【調査地点】

実施した地点は下図の通りです。実線で示した地点は野外、点線で示したものは室内および普段は動物が生態展示されている地点となります。

(高知県立のいち動物公園の地図に調査地点を加筆)

 

【調査方法】

アリ類の採集は見つけ採りとふるい採りで実施しました。

見つけ採りはその名の通り、目で見て捕まえる方法です。

捕まえたアリは現地で70%エタノールに漬けて固定します。

(見つけ採りの様子)

 

ふるい採りは下図のシフター(下図a)と呼ばれる道具を使用します。

地表に溜まった落ち葉や土壌を上から投入し、中間部に付いている1cmメッシュの枠でふるい、通過したものが下に落ちる仕組みです。

落ちたものを持ち帰り、ツルグレン装置等(土壌動物を効率的に採取する装置)(下図b)で48時間かけてアリ類を抽出します。

(土壌性アリ類の採集道具)

 

【サンプル分析】

採集したアリは室内に持ち帰り、各個体の乾燥標本を作成し、実体顕微鏡下で図鑑や学術論文などを参照して種を同定(その生き物の名前を特定すること)しました。

(弊社の昆虫同定スペース)

 

【調査結果】

本調査によってのいち動物公園内からは43種(暫定値)ものアリ科が採集されました。このうち1種は「高知県レッドデータブック2018 動物編」に掲載されている重要種でした。

高知県内には今のところ約100~110種のアリが知られていますので、県内に生息しているアリの約半数が高知県立のいち動物公園内に分布していることが明らかになりました。

 

3日間の調査で43種のアリが確認されましたが、アリ類はそれぞれの種が好む環境や食べ物が異なっています。

限られた本公園の面積内に多種のアリが生息しているということは、園内に多様な環境が内包されていることの裏付けであり、本園が自然と共存した動物公園であるとアリ相からも評価されます。

(園内にある環境タイプの一例)

 

【おわりに】

今回は、通常、昆虫類の調査をすることのない飼育展示施設内等でも調査をさせていただき、貴重な経験となりました。本調査が、園内の豊かな自然環境を可視化する、ひとつの材料となれば幸いです。

お忙しい所、本調査に多大なご協力いただいた高知県立のいち動物公園様には厚くお礼を申し上げます。